三分
L to R ver.


『河田は河田…オレはオレだ…ヤツの方が上かもしれん…』
そう、火曜日はジャンプの、いや、スラムダンクの日である。だからオレはここにいる。
午前四時に。
寒いよ、ああ、寒いともさ。コンビニの窓の外はまだ暗い。朝早いからな。緯度高いからな。
冬だからな。
けど山王強え…。
マジ強え。
ボール相手コートに行かないじゃん。
何だこのオールコートゾーンプレスって。反則だろ。
凄えよ河田兄。魚住も花形も退けた神奈川ナンバーワンセンター・赤木剛則を全く寄せ付けねえ。
でもでも。
『それでも…』
そう、それでも!
『湘北は負けんぞ』
ゴリ復活!カンペキ甦ったねゴリ。もう完全復活。ありがとう、謎の板前さん(笑)。
『おーー!!――臓腑の奥から突き上げる魂の叫び!!――』
おー!!
『うおーー!!』
うおー!
こんちくしょー朝の三時に起きだして早出しコンビニに自転車を飛ばしダートレースのように雪道を漕ぎ駆け振り付ける氷の欠片まじりの風に逆らい半分凍りながらコンビニの扉に倒れこむのは何のためだ?!
湘北の応援のために決まってるだろうが!
がんばれゴリ!泥にまみれろよ、華麗じゃない鰈のゴリ。
「はい、何でしょうか?…え?はい?」
『bPセンターの称号はお前に譲ってもいいぜ でもな』
でもな、でもな、だ、ゴリさん!言ってやれ!
「え?レジで?いや、レジは……あ?ああ!」
『でもな 全国制覇は譲れんのだ』
……ゴリさん格好えー!
「ああ、コンビニ強盗?」
…………………………は?
あ、ホントだ、包丁持ってら。うわ、レジの人、素で困ってるよ。
「あ、はい、はい…でもマジでやんの君?ああ分かってる分かってるって、はいはい」
あ、結構レジの中お金入ってんだな。ホントに上げちゃうんだ。あれみたいだな、ムラカミハルキのさ、ほら。
『パン屋再襲撃』
あれ二人だったっけ。
そう二人だ。
やっぱあれって『クローム襲撃』のタイトルから連想したんかな。
原題「BURNNING CHROME」って言うんだよね。「クロームを灼け」ってとこ?
でも『クローム襲撃』ってのもカッコイイな。
『河田は河田…赤木は赤木…そしてオレは…オレは誰だ?』
ミッチー!がんばってミッチー!
てもうヘロヘロじゃん。
『オレは誰なんだよ…!?言ってみろ!!オレの名前を言ってみろ…!!』
ジャギかよ!
って一応突っ込んどく?突っ込んどく?
いや本当、ちょっと代えて休ませようよ安西先生。目が虚ろだよミッチー。バス酔い修学旅行生みたいだよミッチー。
「小銭はいらん!早うしろ!」
うーわ、包丁振り回してるやんアブねー。小銭も貰っときゃいいやん。勿体ね。
「な…その声…お前鉄矢か?!」
「ち…違!…」
……思いっきり声つくっとるやん。バレバレやん。
なん?レジん人と知り合いなん?
「何やってんだ鉄矢!お前美代子ちゃんはどうした?!」
「美代子は……美代子は……」
『オレがダメでもあいつらがいる。あいつらの才能を発揮させてやればいい。泥にまみれろよ――』
ゴリ覚悟決めたっ!ナイススクリーン!ミッチー走ってる!リョータパーース!
『三井!』
……ミッチー!!
「ばっきゃろー!!美代子ちゃんが悲しむだろうが!!」
「美代子はもう居ねえんだよ!」
「鉄矢……」
「もういいんだよ!もうオレには何もねえんだよ!」
「待て!鉄矢!」
ドア閉めてけー!!めちゃ寒いー!!店員さんはよ閉めてー!!
ってお前も行くんかい。
ってお前も開けっ放しかい!
あ、お姉さんありがとう閉めてくれて。えーとオレと、お水帰りっぽいお姉さんと……小銭拾ってるおっさん……いいのか?
「てぇつぅやぁああーー!!」
『おう オレは三井 あきらめの悪い男……』
……決めた……
ミッチー決めたあ!
『本能だけが男を突き動かす!』
柱のあおりもカッケー。
本能だけが男を突き動かす。
ふっふっふ。
本能だけが男を突き動かす。
ふっふっふっふ……。
さて帰ろう。吹雪の中を雪を越えて行くのだ。ペダルを踏み抜いて。
うわ、店員さんまだ棒立ち。寒いからはよ中入れー。
てか泣いてるし。
そか…小銭拾われてるがな…
じゃ俺は行くぜ!雪も嵐も踏み越えて。
なぜなら金曜日は『シャカリキ!』の日だからだ。

END