魔法少女少年タッキーR  
 
魔法少女少年タッキーR
 L to R ver.


 
 なあ、知ってるか?
 と登校中に一馬が聞いてきたときからヤな予感はしてたんだ。
 「いや、知らない」
 「まだなにも言ってねえだろ!」
 と一馬は怒るけど無視して会話をやり過ごそうとしたら、結人が、知ってる知ってる、と一馬に話をあわせた。
 「あれだろ?」
 「そうそう、あれあれ!」
 一馬は話に乗ってきた結人のほうに寄ってって、二人して話を続けた。
 ……「あれ」呼ばわりされてるますよー、魔法少女少年さん。
 「この頃この街に現れる魔法少女だろ?」
 「そーそー!『魔法少女タッキー』」
 ……ちょっと待て。
 「魔法『少女』?」
 突然話に割ってきた俺を二人とも振り返る。
 「何だ、ほんとに知らねえの?」
 一馬が答えた。結人が説明してくれる。
 「この頃さあ、夜道の痴漢退治や、迷子のお世話や、重い荷物で困ってるお婆さんを助けたりしようと奮闘する魔法少女が出没してんだよ」
 「いや、俺が聞いてるのは『少女』と言うところであって……」
 「でもさあ」
 一馬が人の話も聞かず結人に続いた。
 「痴漢を退治しようってしたら逆に痴漢に襲われそうになって泣きながら逃げたそうだし、迷子とは一緒に迷子になっちまったらしいし、重い荷物を運んだらそのお婆さんちで力尽きてへたばってその家で介抱されたらしいぜ」
 ……………………………………………………………………
 ………………………………何やってんだあいつは!
 「あ、あれじゃねえ?」
 頭を抱えてたら、一馬が通学路の先を指差した。
 「ああ、あれかあ」
 結人がそれを物珍しそうに見た。
 ああ……いるよ……。
 「こら、君たち!四年生なのに二年生いじめちゃダメだよ!」
 ガキどもの中に交じっても違和感無いな――あの衣装を除けば。
 「うるせーよ。女のくせに口出しすんなよ」
 「そーだ、お前先生かよー」
 「な…ボ、ボク女の子じゃ」
 「『ボク』とか言ってんじゃねーよ、女子のくせにー」
 「そーだそーだ。お前何年だよー」
 おいおい……。
 「何だ。逆にいじめられてねえ?」
 一馬が言った。
 「って言うか、もう泣きそうじゃん」
 結人が面白そうに見物してる。
 四年生どもはますます調子付いてきた。
 「そーだ、こいついじめちゃおうぜー」
 「泣かしちゃおうぜー。女子のくせに生意気だしよー」
 「ちょっ…君たちやめてよう!」
 結人が吹き出した。
 「あーあ、ほんとに泣きだしたよ」
 「助けてやれよ、えーし」
 「何で俺が?!」
 思いもよらず声が強くなってしまった。一馬が戸惑いながら答える。
 「悪い。何かお前、心配そうに見てたからさー」
 「……………………そんなことないよ。それより早く学校行こう」
 足を早めて通り過ぎようとした。
 「そーだ。女子いじめの定番、スカートめくりしよーぜ」
 「パンツ丸見えー」
 「スカートめくりー、スカートめくりー。イエー!」
 「それはやめろってんでしょ!!」
 思わず多紀のスカートに手を掛けてたガキの頭をはたいてた。
 「あ…」
 ほかの四年生たちもこっちを見た。
 「郭くん……」
 シーンと静まり返る。ため息をついて呼吸を整えると言った。
 「ほら、さっさと学校行きなよ。下らないことやってないで」
 声を沈めていうと、ガキどもは黙って顔を見合わせ、言うとおり学校へ走っていった。
 「あ、ありがとう、英――」
 「名前を呼ばないでよ!」
 寸でのところで口を封じた。多紀、無防備すぎ!
 「あ、ありがとう、おにいちゃん、おねえちゃん……」
 多紀の後ろから、四年生どもにいじめられてたらしい二年生が出てきて、おずおずと言った。
 「お、おねえちゃん……?」
 多紀は本気でショックを受けてたようだけど、何とか笑顔を作って手を振った。
 「じゃあ気をつけてね。学校でいじめられたらちゃんと先生に言わなきゃだよ。じゃなかったらこの六年生のおにいちゃんに助けてもらってね」
 「ちょ、ちょっと待て多…」
 慌てて遮ったけど、その二年生は元気よく「うん!」と返事すると「またねーおにいちゃん、おねえちゃん!」と言って学校へと駆け出した。
 なんなんだよ、一体……
 「あーよかった」
 ふと多紀が安心して、また涙をこぼし始めてた。あああおまえはもおおお!!
 「母さんが朝持たせたやつだからね」
 ハンカチをポケットから取り出して多紀に渡した。
 「ありがとう、英……『おにいちゃん』」
 涙目で、ふわっと多紀が笑った。やめてってば!朝っぱらから。
 多紀は手を振って「またねー!」と去っていった。
 後ろで見てた一馬と結人が面白そうに駆け寄ってきた。
 「何だ、結局助けてんじゃん。えーし」
 「たまたまね」
 からかう結人に素っ気無く答える。
 「知り合いなのか?えーし」
 「ぜ!ん!ぜ!ん!」
 そ、そうか悪い……と一馬が謝った。
 「いや、それより早く学校行こうよ。遅刻するよ?」
 「そだな。一時間目なんだっけ?」
 「音楽。たてぶえ練習してきたか?」
 「するわけ無いでしょ」
 「とか言ってえーし、器用にやっちゃうんだもんなー」
 「一馬が不器用なだけでしょ」
 ちぇー、と一馬がぼやいて結人が笑った。
 
 
           ※
 
 
 「次なんだっけ?」
 音楽室からの帰り、廊下で結人に聞かれて、算数、と答えた。
 「うわー宿題やってきてねえよ」
 「結人が宿題やってきたことなんてないでしょ」
 結人は、えーしきつー、と文句を言った。
 教室では、ちょっといつもと様子が違った。先に帰ってた連中が一箇所に集まって騒いでいる。
 「何だあれ?」
 一馬が聞いたけど「俺が知るわけ無いでしょ」と答えた。
 やがてチャイムから遅れて担任の越智美先生が入ってきた。何と言うか…マイペースな先生だ。
 「はーい席ついてみんなー」
 教壇に立って越智美先生がのんびりしたこえで言うと、集団がばらけた。みんなが集まってたのは……なんてこった……
 「はいはい、じゃあこっち来て。ここ、ここに立って自己紹介してくれるー?」
 あいつは恥ずかしそうに立ち上がると、教壇に上がった。
 「はい、じゃあどうぞ」
 越智美先生が振ると、あいつは一旦深呼吸するように深い息をして、それから口を開いた。
 「初めまして、今度路砂小学校六年二組に転校してきた杉原多紀です。よろしくお願いします」
 そういうと多紀は頭を下げた。
 「なあ」
 「なあ」
 一馬と結人が口を開く。
 「あいつどっかで見たことねえ?」
 「無いよ」
 即答すると二人とも釈然としないで首をかしげていた。
 「はい、何か杉原君に質問とかある人いるー?」
 越智美先生が言うと、早速手が上がった。女子の横山寧々だ。
 「いいかな、杉原君?」
 越智美先生が聞くと多紀は控えめに頷いた。それを見て横山はいつものように物怖じせず、はきはきと喋った。俺は、あんまり変なこと聞かれませんように、と祈ってた。
 「杉原君の家、どの辺ですか?今度遊びに行ってもいいですか?」
 教室中がいきなりの大胆な質問にざわついたが、俺はいきなりのあまりな質問に真っ白になった。
 「あの、今ボクは」
 言うな……言うなー!!
 「郭くんの家にお世話になっているので、郭くんに聞いてください」
 さらに教室がどよめいた。とくに女子の間で。横山まで「あーあ、郭が相手じゃねえ」とか言っている。俺が?俺が相手って何なんだよ?!
 みんなが振り返って俺の顔を興味深そうに見ているけど、俺は心の中で「平常心」と開明墨汁で楷書していたのに。
 多紀は俺を見てにっこり笑った。
 ああ、もお……。
 
 
 余談:越智美先生の名前は諭子です。某死神漫画からレンタルしてきました(ちょっと変形)。
 ちなみに路砂小学校はロサしょうがっこうとよびます。